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役所の業務日誌から見えてくる一万石の小藩の知られざる日常。増川宏一&北村六合光『伊予小松藩会所日記』


どうも。最近よくサラダを食べるようになった馬頭です。
安く買うのは気にしないことにしたのです。そもそも野菜は高いと。

それはともかく。

増川宏一。原典解読/北村六合光。『伊予小松藩会所日記』

『伊予小松藩会所日記』

(増川宏一。原典解読/北村六合光(くにてる)。集英社。集英社新書0100D。2001年。660円。198ページ)
はじめに
第一部 武士の暮らし
一、小松藩のなりたち 二、小松藩の概略 三、会所日記 四、小松藩の財政状況 五、古証文 六、武士の減棒 七、藩士の食卓 八、藩札の発行 九、殿様在国 一○、参勤交代
第二部 領民の暮らし
一、駆け落ち 二、不倫と情死 三、不思議の記述 四、領民 五、娯楽 六、目明し 七、盗品と暮らし 八、他領との交渉 九、善政 一○、泥酔 一一、海防 一二、越後従軍
おわりに
あとがき


江戸時代、愛媛県にあった伊予小松藩の役所の一部である「会所」で書かれた業務日記のようなもの「会所日記」をもとに、わずか一万石の極小藩の日常風景を活き活きと描き出す本です。
現在、5冊くらい同時進行で本を読んでるのですが、そんな中でこれは他のを置いて一気に読んでしまうくらい面白かったです。

小松藩は、四国・愛媛県の北側の瀬戸内海と南の四国山地の間に挟まれた狭い地域に存在した藩で、その領地は中山川沿いに南北に細長く、最南部には西日本最高峰の石鎚山がありました。さらに飛び地が東側の西条藩の向こう側に存在していて、全部合わせても一万石ピッタリギリギリ。これ以下の石高だと大名じゃなくなってしまいます。人口も全部で1万人くらいで、家臣の武士がわずか数十名しかいないという、吹けば飛ぶような本当の弱小藩です。ここを支配した大名家は一柳家で、江戸時代を通じて藩主も領地も変わらなかった珍しい藩でもあります。一柳家は、豊臣秀吉の部下となった一柳直末・一柳直盛兄弟からのし上がって、最終的に一柳直盛が大坂の陣の後、伊予西条藩に6万8600石で入るわけです。そして、一柳直盛が三人の息子に領地を分配して出来たのが、三男・直頼の系統の小松藩1万石となります。
長兄と次兄の系統は、断絶と減封で伊予からいなくなり、周りは幕府の親藩やら天領ばかりという状況。幕府や周辺国に気を使いながら、なんとかやりくりして藩を運営していました。
そんな小松藩ですが、小さい藩だったこともあり、藩の隅々まで目が届いていました。なので、領民の状況も、長く書き続けられた会所日記によって詳細にわかることになります。
この本では、いくつかの面白い出来事をピックアップして紹介していて、時代劇などでは描かれることのない、地方の小藩の日常風景を知ることができます。そして、それのどれもが興味深く感じるものばかりでした。
藩なのに農民などから借りた小口の借り入れがたくさんあったとか、あまりにも赤字財政がひどくて、藩士が減棒されることになるが、なんと7割とか8割とかいうくらい大幅に減らされたりとか、それでも武士を辞める人がいなかったとか、そんな状況でも矜持のため副業も内職もしないとか・・・(武士も大変だなぁ)。
この藩は城は無くて、陣屋があるのですが、その側に藩内唯一の町があったそうです。でも、町といってもお店が200軒、道の片側に並んでるだけだそうで、ここに領内の人口の一割近くの900人が住んでました。ほんと小さな藩ですね。
財政は厳しく、借金だらけ。しかも、財政再建のための方策として、藩札を作ることになるのですが、藩札は幕府が禁止してるので、商人たちに「銭預り札」という名目で出させる「藩が作らせた非合法の藩札」というややこしいモノになってしまってます(笑)。そして、その藩札の価値を保証する準備銀を用意するために借財をして、むしろ借金が増えて行くという意味不明なことになったりとか!(涙目)
そもそも、参勤交代と江戸屋敷の維持が凄い金食い虫だったみたいで、やはり参勤交代による諸藩の弱体化って説は実はある意味ホントだったのかも、と思い直したくなるほど。小さい藩だから大名行列もわずか百人ちょっとなのですが、それでも往復に1200両もかかってます。藩の年収の1割近い!
そんな藩なので、幕末に対異国船警備を海岸でやるとき、連絡用の馬が必要になりますが、藩が持ってる公用の馬が訓練用の一匹だけだったのでもう一匹買ったそうです。
ともかく、財政状況の良くない貧しい藩だったので、会所日記に書かれる事件もお金がらみの話が凄く多いです。
殺人とかの大きな犯罪は少ないですが、盗みなどは結構あり、そうした事件の記録も書いてあって、そこからいろいろ見えてくるのが面白いですね。盗まれたモノとかは、意外と見つかって持ち主のところに返されたりしてます。目明しが探してくるのですが、犯罪捜査などで武士の下で働く目明しは、元犯罪者だったりして裏社会の事情に詳しく、領域を越えて他藩の目明しなどと緊密な関係を持っていたため、なかなかいい仕事しますよ。
ただ、捕まえても犯罪者は意外とヌルい処罰で済んでますね。禁止されてる賭博が頻繁に行われてたみたいですが、軽い処分で済んだりとか。
そういえば、藩主が代々娯楽を許さなかったので、碁や将棋、双六や楊弓なんかも禁止され、近場で芝居が興業されても行かないように通達されたりするという、むちゃくちゃ楽しみの少ない社会だったりとか。だからなのか、賭博はその場のノリで気軽にやってます。
他に不倫や駆け落ちや心中などの記事もありますが、駆け落ちの話で面白かったのは、駆け落ちした二人を追って、目明しや小者たちが藩外まで捜しに行くのですが、人の出入りの多い道後温泉にそれらしい噂を聞いて行ってみたら、宇和島藩から駆け落ちした別の男女がいた、という話。やはりいつの時代でも逃亡者は温泉宿に逃げるのかwww
あと、足軽は農家の次男三男とかを登用してる場合も多いものだから、実家からの「通い」で足軽をやってたという話も面白いですね。小さい藩だから人材のあてが限られてて、身分的な断絶も緩く、財政の厳しいこともあり、農家などとの婚姻も多かったそうです。
あと面白い話といえば、幕末の1853年にロシア船が日本に来て、幕府が各地の藩に海岸の防衛をさせた話で、馬が少なかった話はしましたが、他にも警報用の法螺貝や大筒の状態が良くなくて新しく買ったり別のを用意したりとか、足軽たちに武具を自弁させるはずが、金が無いといって修繕もしないので、お金を渡さないといけなかったりとか、戦争するのが久し振り過ぎていろいろ支障が出まくってます。しかも、買った馬は故障持ちの馬だったし、馬に乗る連絡員の役目をまかされた人は痔で馬に乗れなかったり、もういろいろグダグダです。

最後は戊辰戦争で新政府側について、越後まで行ってます。戦死者一名。こうして一柳家は生き残り、華族令で子爵になったという次第です。大変なことも多い藩でしたが、別に無能だったわけじゃなく、かなり有能な感じがする記述も多い。特に、享保17年(1732年)の享保の大飢饉の時は、うまく対応して餓死者を出さなかったという凄い話が。西隣の松山藩は5000人くらいの餓死者を出して藩主が謹慎処罰を受けてるほどです。それと、19世紀に作った藩校・養正館は、武士じゃなくても勉強させてもらえたとか。身分制度の厳しい当時としては凄いことですよね〜。
小藩ながらエピソードがどれも面白く、感心することも多かったですが、なにわともあれこうした事が知ることができるのは、「会所日記」という書き続けられた記録があったからです。ホント残して保存しといてくれてて良かった。そして、こういうものを地道に研究してる人というのは、ほんとうに凄いですね。ただの業務日誌的なものがここまで面白いとは思いませんでした。

ちなみに著者の増川氏は将棋史や盤上遊戯史の専門家でもあって、そっちの系統の本も面白かったです。

参照サイト
集英社新書: 新書
http://shinsho.shueisha.co.jp
小松藩(Wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%8F%E6%9D%BE%E8%97%A9
増川宏一(Wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A2%97%E5%B7%9D%E5%AE%8F%E4%B8%80
藩札(Wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%97%A9%E6%9C%AD

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